オブジェクトメソッドで setTimeout
を使ったり、オブジェクトメソッドを渡すような場合、“this
を失う” という既知の問題があります。
突然、this
が正しく動作するのをやめます。この状況は初心者の開発者には典型的ですが、経験者でも同様に起こりえます。
“this” を失う
私たちはすでに、JavaScriptでは this
を失うことが容易であることを知っています。 あるメソッドがオブジェクトから別の場所に渡されると、this
は失われます。
ここで setTimeout
を利用してどのように起こるのかを示します:
let user = {
firstName: "John",
sayHi() {
alert(`Hello, ${this.firstName}!`);
}
};
setTimeout(user.sayHi, 1000); // Hello, undefined!
上で分かる通り出力は、 this.firstName
は “John” ではなく、 undefined
です!
これは、 setTimeout
はオブジェクトとは別に関数 user.sayHi
を持っているためです。最後の行はこのように書き直すことができます:
let f = user.sayHi;
setTimeout(f, 1000); // user コンテキストを失います
ブラウザにおいて、メソッド setTimeout
は少し特別です: 関数呼び出しでは this=window
を設定します(Node.js では、this
はタイマーオブジェクトになりますが、ここではほとんど関係ありません)。従って、this.firstName
は、存在しない window.firstName
を取得しようとします。他の同様のケースでは、通常 this
は undefined
になります。
このタスクは非常に典型的です – オブジェクトメソッドをどこか別の場所(ここではスケジューラに渡して)から呼び出したい場合です。それが適切なコンテキストで呼び出されることはどのように確認すればよいでしょう?
解決策 1: 囲む
最もシンプルな解決策はラップされた関数を使うことです:
let user = {
firstName: "John",
sayHi() {
alert(`Hello, ${this.firstName}!`);
}
};
setTimeout(function() {
user.sayHi(); // Hello, John!
}, 1000);
これは上手く動きます。なぜなら、外部のレキシカル環境から user
を受け取り、メソッドを普通に呼び出すためです。
これも同じですが、より短い記法です:
setTimeout(() => user.sayHi(), 1000); // Hello, John!
良く見えますが、コード構造に僅かな脆弱性があります。
仮に setTimeout
が動く前に(上の例では1秒の遅延があります!)、user
が値を変更していたら?すると突然、間違ったオブジェクトを呼び出すでしょう!
let user = {
firstName: "John",
sayHi() {
alert(`Hello, ${this.firstName}!`);
}
};
setTimeout(() => user.sayHi(), 1000);
// ...1秒以内に次が行われると
user = {
sayHi() { alert("Another user in setTimeout!"); }
};
// Another user in setTimeout?!?
次の解決策はこのようなことが起きないことを保証します。
解決策 2: bind
関数は、this
を固定できる組み込みメソッド bind を提供します。
基本の構文は次の通りです:
// より複雑な構文はもう少し後で
let boundFunc = func.bind(context);
func.bind(context)
の結果は特別な関数ライクな “エキゾチックオブジェクト(exotic object)” です。これは関数として呼ぶことができ、func
に this=context
を透過的に渡します。
言い換えると、boundFunc
の呼び出しは、固定された this
での func
呼び出しです。
例えば、funcUser
は this=user
での func
呼び出しを渡します:
let user = {
firstName: "John"
};
function func() {
alert(this.firstName);
}
let funcUser = func.bind(user);
funcUser(); // John
ここで、func.bind(user)
は this=user
で固定された func
の “バインドされたバリアント” となります。
すべての引数はオリジナルの func
に “そのまま” 渡されます。例:
let user = {
firstName: "John"
};
function func(phrase) {
alert(phrase + ', ' + this.firstName);
}
// this を user にバインドする
let funcUser = func.bind(user);
funcUser("Hello"); // Hello, John (引数 "Hello" が渡され, this=user)
さて、オブジェクトメソッドで試してみましょう。:
let user = {
firstName: "John",
sayHi() {
alert(`Hello, ${this.firstName}!`);
}
};
let sayHi = user.sayHi.bind(user); // (*)
// オブジェクトなしで実行可能
sayHi(); // Hello, John!
setTimeout(sayHi, 1000); // Hello, John!
// 1秒以内に user の値が変わったとしても
// sayHi は古い user オブジェクトを参照しているバインド前の値を使用します
user = {
sayHi() { alert("Another user in setTimeout!"); }
};
(*)
の行で、メソッド user.sayHi
を user
にバインドしています。sayHi
は “束縛(バインド)された” 関数であり、単独もしくは setTimeout
に渡して呼び出すことができます。
引数が “そのまま” 渡され、this
だけが bind
によって固定されていることがわかります:
let user = {
firstName: "John",
say(phrase) {
alert(`${phrase}, ${this.firstName}!`);
}
};
let say = user.say.bind(user);
say("Hello"); // Hello, John ("Hello" 引数は say に渡されます)
say("Bye"); // Bye, John ("Bye" は say に渡されます)
bindAll
もしオブジェクトが多くのメソッドを持ち、それらをバインドする必要がある場合、すべてループでバインドできます。:
for (let key in user) {
if (typeof user[key] == 'function') {
user[key] = user[key].bind(user);
}
}
JavaScriptライブラリは、便利な多数のバインドを行うための機能も提供しています。e.g. _.bindAll(obj) in lodash.
部分関数
これまでは、this
のバインドについてのみ説明してきました。次のステップにいきましょう。
this
だけでなく、引数もバインドすることが可能です。これはめったにされませんが、便利な場合があります。
bind
の完全な構文は次の通りです:
let bound = func.bind(context, [arg1], [arg2], ...);
context を this
とし、関数の開始引数をバインドすることができます。
例えば、乗算関数 mul(a, b)
があるとします:
function mul(a, b) {
return a * b;
}
これをベースに、bind
を使用して、double
関数を作成しましょう。:
function mul(a, b) {
return a * b;
}
let double = mul.bind(null, 2);
alert( double(3) ); // = mul(2, 3) = 6
alert( double(4) ); // = mul(2, 4) = 8
alert( double(5) ); // = mul(2, 5) = 10
mul.bind(null, 2)
の呼び出しで新しい関数 double
を作成し、これはコンテキストを null
、最初の引数を 2
で固定した mul
を呼び出します。それ以降の引数は “そのまま” 渡されます。
これは 部分関数アプリケーション と呼ばれ、既存のパラメータのいくつかを固定にすることで新しい関数を作成します。
実際にはここでは this
は使用しないことに留意してください。ですが、bind
で指定が必要なので null
など何かしらを置く必要があります。
以下のコードの関数 triple
は値を3倍します。:
function mul(a, b) {
return a * b;
}
let triple = mul.bind(null, 3);
alert( triple(3) ); // = mul(3, 3) = 9
alert( triple(4) ); // = mul(3, 4) = 12
alert( triple(5) ); // = mul(3, 5) = 15
なぜ部分関数を作るのでしょうか?
メリットは、読みやすい名前(double
, triple
)で独立した関数を作ることができることです。bind
で固定されているため、毎回最初の引数を指定する必要がありません。
他のケースでは、非常に一般的な関数がある状態で、便利さのために特定用途のパターンが欲しい場合に部分関数は役立ちます。
例えば、関数 send(from, to, text)
があるとします。user
オブジェクトの中で、その部分パターンを使用したい場合、現在のユーザから送信をする関数 sendTo(to, text)
。
Going partial without context
仮に引数のいくつかを固定したいが、コンテキスト this
は固定したくない場合はどうしますか?例えば、オブジェクトメソッドです。
ネイティブの bind
はそれは許可しません。コンテキストを省略して引数だけ指定することはできません。
幸いなことに、引数だけをバインドするための関数 partial
は簡単に実装できます。
次のようになります:
function partial(func, ...argsBound) {
return function(...args) { // (*)
return func.call(this, ...argsBound, ...args);
}
}
// Usage:
let user = {
firstName: "John",
say(time, phrase) {
alert(`[${time}] ${this.firstName}: ${phrase}!`);
}
};
// 固定時間で部分メソッドを追加
user.sayNow = partial(user.say, new Date().getHours() + ':' + new Date().getMinutes());
user.sayNow("Hello");
// Something like:
// [10:00] John: Hello!
partial(func[, arg1, arg2...])
呼び出しの結果は以下をもつ func
を呼び出すラッパー (*)
です。
- 取得したものと同じ
this
(user.sayNow
呼び出しの場合、user
) - 次に
...argsBound
を指定します。partial
呼び出しからの引数 ("10:00"
) - 次に
...args
。ラッパーに与えられた引数("Hello"
)
なので、スプレッド構文で簡単に行うことができます。
また、lodash ライブラリでは、_.partial 実装が用意されています。
サマリ
メソッド func.bind(context, ...args)
はコンテキスト this
を固定した関数 func
の “束縛されたバリアント” を返します。
通常は、オブジェクトメソッドで this
を固定するために bind
を適用し、どこか (たとえば setTimeout
) に渡すことができるようにします。
既存の関数において、引数のいくつかを固定した汎用性の低い関数は、部分関数と呼ばれます。
部分関数は同じ引数を何度も繰り返したくないときに便利です。例えば、send(from, to)
という関数があって、from
はどのタスクでも常に同じになるはずなら、部分関数を利用してそれを処理できます。
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