チャプター ガベージコレクション で学んだ通り、JavaScriptエンジンは、それが到達可能な(そして潜在的に利用される可能性がある)間、メモリ上に値を保持しています。
例:
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
// オブジェクトへはアクセス可能です。john がその参照を持っています
// 参照を上書きします
john =
null
;
// オブジェクトはメモリから削除されるでしょう
通常、オブジェクトまたは配列の要素、もしくは別のデータ構造のプロパティは到達可能と考えられ、そのデータ構造がメモリにいる間は保持され続けます。
例えば、あるオブジェクトを配列に入れた場合、その配列が生きている間は、他の参照がなくてもそのオブジェクトは生きていることになります。
例:
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
let
array =
[
john ]
;
john =
null
;
// 参照を上書きします
// 以前 john で参照されていたオブジェクトは配列内に格納されています
// そのため、ガベージコレクションされません。
// array[0] で取得することが可能です
また、通常の Map
のキーとしてオブジェクトを使うと、Map
が存在している間はそのオブジェクトも存在します。これはメモリを占め、ガベージコレクションされないかもしれません。
例:
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
let
map =
new
Map
(
)
;
map.
set
(
john,
"..."
)
;
john =
null
;
// 参照を上書きします
// john は map の中に保持されています
// map.keys() で取得することができます
WeakMap
はこの点で根本的に異なります。これらはキーオブジェクトのガベージコレクションを妨げることはありません。
例でその意味するところを見ていきましょう。
WeakMap
Map
との最初の違いは、WeakMap のキーはプリミティブな値ではなくオブジェクトでなければならないことです:
let
weakMap =
new
WeakMap
(
)
;
let
obj =
{
}
;
weakMap.
set
(
obj,
"ok"
)
;
// 正常に動作します (オブジェクトのキー)
// キーに文字列は使えません
weakMap.
set
(
"test"
,
"Whoops"
)
;
// エラー, "test" はオブジェクトではないため
いま、オブジェクトをキーとして使用し、そのオブジェクトへの参照が他にない場合、自動的にメモリ(と map)から削除されます。
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
let
weakMap =
new
WeakMap
(
)
;
weakMap.
set
(
john,
"..."
)
;
john =
null
;
// 参照を上書きします
// john はメモリから削除されます!
上の例を通常の Map
の場合と比べて見てください。WeakMap
のキーとしてのみ john
が存在する場合、自動的に削除されます。
WeakMap
は繰り返しと、メソッド keys()
, values()
, entries()
をサポートしません。そのため、すべてのキーや値を取得する方法はありません。
WeakMap
は次のメソッドのみを持っています:
weakMap.get(key)
weakMap.set(key, value)
weakMap.delete(key, value)
weakMap.has(key)
なぜこのような制限があるのでしょうか?これは技術的な理由です。もしオブジェクトがすべての他の参照を失った場合(上のコードの john
のように)、自動的に削除されます。しかし、技術的には いつクリーンアップが発生するか は正確には指定されていません。
それはJavaScriptエンジンが決定します。エンジンはすぐにメモリのクリーンアップを実行するか、待ってより多くの削除が発生した後にクリーンアップするかを選択できます。従って、技術的にはWeakMap
の現在の要素数はわかりません。エンジンがクリーンアップしている/していない、または部分的にそれをしているかもしれません。このような理由から、WeakMap
全体にアクセスするメソッドはサポートされていません。
さて、どこでこのようなものが必要なのでしょう?
ユースケース: additional data
WeakMap
のアプリケーションの主な領域は、 追加のデータ格納 です。
別のコード、おそらくサードパーティライブラリに “属する” オブジェクトを操作していて、それに関連付けられたデータをいくつか保存したい場合、それは元のオブジェクトが生きている間だけ存在している必要があります。このとき、WeakMap
はまさに必要とされるものです。
キーとしてオブジェクトを使用して、WeakMap
にデータを格納し、オブジェクトがガベージコレクションされたとき、データも同様自動的に消えます。
weakMap.
set
(
john,
"secret documents"
)
;
// もし john がなくなった場合、秘密のドキュメントは破壊されるでしょう
例を見てみましょう。
例えば、ユーザの訪問カウントを保持するコードがあるとします。情報は map に保持されています。ユーザオブジェクトがキーであり、訪問カウントがその値です。ユーザが離れたとき(そのオブジェクトがガベージコレクションされる)、もうそのユーザの訪問カウントは保持する必要はありません。
これは、 Map
を使用したカウント関数の例です:
// 📁 visitsCount.js
let
visitsCountMap =
new
Map
(
)
;
// map: user => visits count
// 訪問カウントを増やす
function
countUser
(
user
)
{
let
count =
visitsCountMap.
get
(
user)
||
0
;
visitsCountMap.
set
(
user,
count +
1
)
;
}
また、これはコードの別の部分で、おそらく上の関数を使用する別のファイルです:
// 📁 main.js
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
countUser
(
john)
;
// 訪問をカウント
// あとで john が離脱したとき
john =
null
;
このとき、john
オブジェクトはガベージコレクションされるべきですが、visitsCountMap
のキーなので、メモリに残ったままです。
ユーザが削除されたとき、visitsCountMap
をクリーンアップする必要があります。そうしないと、メモリ内で無限に大きくなります。このようなクリーニングは複雑なアーキテクチャでは面倒な作業になりえます。
代わりに WeakMap
に切り替えることで回避できます:
// 📁 visitsCount.js
let
visitsCountMap =
new
WeakMap
(
)
;
// weakmap: user => visits count
// 訪問数を増加
function
countUser
(
user
)
{
let
count =
visitsCountMap.
get
(
user)
||
0
;
visitsCountMap.
set
(
user,
count +
1
)
;
}
これで、visitsCountMap
をクリーンアップする必要はありません。WeakMap
のキーを除いたすべての手段で john
オブジェクトが到達不可能になった後、WeakMap
からそのキーによる情報とともに、メモリからは削除されます。
ユースケース: キャッシュ
もう一つの一般的な例はキャッシュです。関数からの結果を保持(“キャッシュ”)できるので、同じオブジェクトに対する将来の呼び出しで再利用することができます。
これを実現するために、Map
(最適ではないシナリオ)が利用できます:
// 📁 cache.js
let
cache =
new
Map
(
)
;
// 計算し結果を覚える
function
process
(
obj
)
{
if
(
!
cache.
has
(
obj)
)
{
let
result =
obj /* に対する計算結果 */
;
cache.
set
(
obj,
result)
;
}
return
cache.
get
(
obj)
;
}
// ここで、別のファイルで process() を使用します。
// 📁 main.js
let
obj =
{
/* オブジェクトがあるとします */
}
;
let
result1 =
process
(
obj)
;
// 計算します
// ...その後、別の場所で呼ばれるとします...
let
result2 =
process
(
obj)
;
// キャッシュから取得した、記憶された結果が使われます
// ...後ほど、オブジェクトがこれ以上は不要になったとき
obj =
null
;
alert
(
cache.
size)
;
// 1 (なんと! オブジェクトは依然としてキャッシュされており、メモリを食っています!)
同じオブジェクトので process(obj)
の複数回の呼び出しに対して、初回だけ結果の計算を行い、その後は cache
から値を取ります。デメリットは、オブジェクトがこれ以上不要になったとき、cache
のクリーンアップが必要なことです。
Map
を WeakMap
に置き換えた場合、この問題は消えます。キャッシュされた結果はオブジェクトのガベージコレクト後、自動的にメモリから削除されます。
// 📁 cache.js
let
cache =
new
WeakMap
(
)
;
// 計算し結果を覚える
function
process
(
obj
)
{
if
(
!
cache.
has
(
obj)
)
{
let
result =
obj /* に対する計算結果 */
;
cache.
set
(
obj,
result)
;
}
return
cache.
get
(
obj)
;
}
// 📁 main.js
let
obj =
{
/* some object */
}
;
let
result1 =
process
(
obj)
;
let
result2 =
process
(
obj)
;
// ...後ほど、オブジェクトがこれ以上は不要になったとき
obj =
null
;
// WeakMap なので cache.size は取得できません
// が、0 あるいはすぐに 0 になります
// オブジェクトがガベージコレクトされると、キャッシュされたデータも同様に削除されます。
WeakSet
WeakSet
も同様に動作します:
Set
に似ていますが、WeakSet
へはオブジェクトのみ追加できます(プリミティブではありません)- オブジェクトは、別の場所から到達可能である間、
Set
に存在します。 Set
同様、add
,has
,delete
をサポートしますが、size
,keys()
とイテレーションはサポートしません。
“弱い” ので、追加の格納場所としても使えます。ですが、任意のデータではなく、むしろ “はい/いいえ” という boolean ライクな情報を記憶するためのものとしてです。WeakSet
のメンバーはオブジェクトについてなにかを意味する場合があります。
例えば、ユーザを WeakSet
に追加して、サイトにアクセスしたユーザを追跡できます。:
let
visitedSet =
new
WeakSet
(
)
;
let
john =
{
name
:
"John"
}
;
let
pete =
{
name
:
"Pete"
}
;
let
mary =
{
name
:
"Mary"
}
;
visitedSet.
add
(
john)
;
// John が訪問
visitedSet.
add
(
pete)
;
// 次に Pete
visitedSet.
add
(
john)
;
// John 再び
// visitedSet は 2 ユーザいます
// John が訪問したかどうかをチェック
alert
(
visitedSet.
has
(
john)
)
;
// true
// Mary が訪問したかをチェック
alert
(
visitedSet.
has
(
mary)
)
;
// false
john =
null
;
// visitedSet は自動的にクリーンアップされます。
最も注目すべき WeakMap
と WeakSet
の制限は、イテレーションの欠如と現在のすべてのコンテンツを取得することができないことです。これは不便に見えるかもしれませんが、WeakMap/WeakSet
がこれらの主要なジョブ – 別の場所に保存/管理されているオブジェクトのデータの “追加の” 保管場所になること – をするのを妨げることはありません。
サマリ
WeakMap
は Map
ライクなコレクションであり、オブジェクトのみがキーとして許可され、他の手段でそのオブジェクトが到達不可能になると、関連付けされた値と一緒に削除されます。
WeakSet
は Set
ライクなコレクションであり、オブジェクトのみが保管でき、他の手段でそのオブジェクトが到達不可能になると、それらも削除されます。
これらの主なアドバンテージは、オブジェクトに対して弱い参照を持っていることです。なので、ガベージコレクションで容易に削除できます。
なお、これには clear
, size
, keys
, values
などのサポートがないという代償が伴います。
WeakMap
と WeakSet
は “主要な” オブジェクト保管場所に加え、“2つ目の” データ構造として使用されます。一旦オブジェクトが主要な保管場所から削除されると、それが WeakMap
のキーまたは WeakSet
でのみ見つかった場合、オブジェクトは自動的にクリーンアップされます。
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