プログラミングでは、何かを取得しそれを拡張することがしばしばあります。
例えば、プロパティとメソッドをもつ user
オブジェクトがあるとします。そして、そのいくつかを僅かに変更した admin
や guest
を作りたいとします。メソッドのコピーや再実装ではなく、単にその上に新しいオブジェクトを作成することで、user
が持っているものを再利用したいです。
プロトタイプ継承 はそれを助ける言語の機能です。
プロトタイプ [[Prototype]]
JavaScriptでは、オブジェクトは特別な隠しプロパティ [[Prototype]]
(スペックにて命名されています)を持っており、それは null
または別のオブジェクトを参照します。そのオブジェクトは “プロトタイプ” と呼ばれます。
object
からプロパティを読んだときに存在しない場合、JavaScriptは自動的にプロトタイプからそれを取得します。プログラミングではこのようなことを “プロトタイプ継承” と呼びます。多くのクールな言語機能やプログラミングテクニックは、これがベースになっています。
プロパティ [[Prototype]]
は内部であり隠されていますが、セットする多くの方法があります。
それらの1つは、次のように __proto__
を使う方法です:
let animal = {
eats: true
};
let rabbit = {
jumps: true
};
rabbit.__proto__ = animal; // rabbit.[[Prototype]] = animal をセット
rabbit
のプロパティを読むときにそれがない場合、JavaScriptは自動で animal
から取得します。
例:
let animal = {
eats: true
};
let rabbit = {
jumps: true
};
rabbit.__proto__ = animal; // (*)
// 今、rabbit で両方のプロパティを見つけることができます:
alert( rabbit.eats ); // true (**)
alert( rabbit.jumps ); // true
ここで、行 (*)
は rabbit
のプロトタイプに animal
をセットしています。
次に、alert
がプロパティ rabbit.eats
(**)
を読もうとしたとき、それは rabbit
にはないので、JavaScriptは [[Prototype]]
参照に従って、animal
の中でそれを見つけます(下から上に向かいます)。
ここでは、私たちは “animal
は rabbit
のプロトタイプ” または “rabbit
がプロトタイプ的に animal
を継承している” という事ができます。"
したがって、もし animal
が多くの役立つプロパティやメソッドを持っている場合、それらは自動的に rabbit
でも利用可能になります。このようなプロパティは “継承” と呼ばれます。
もし animal
がメソッドを持っている場合、rabbit
でもそれを呼ぶことができます:
let animal = {
eats: true,
walk() {
alert("Animal walk");
}
};
let rabbit = {
jumps: true,
__proto__: animal
};
// walk は prototype から得られました
rabbit.walk(); // Animal walk
メソッドは次のように自動的にプロトタイプから取られます。:
プロトタイプチェーンは長くても問題ありません。:
let animal = {
eats: true,
walk() {
alert("Animal walk");
}
};
let rabbit = {
jumps: true,
__proto__: animal
};
let longEar = {
earLength: 10,
__proto__: rabbit
};
// walk は prototype チェーンから取られました
longEar.walk(); // Animal walk
alert(longEar.jumps); // true (rabbit から)
ここで longEar
から何かしらを読み取ろうとして、それが見つからなかった場合、JavaScript はまず rabbit
、次に animal
の順に探しに行きます。
実際には、2つの制限があります。:
- 参照を循環させることはできません。JavaScriptは、循環するように
__proto__
を割り当てようとするとエラーになります。 __proto__
の値はオブジェクトまたはnull
になります。プリミティブのような、それ以外のすべての値は無視されます。
また、明白かもしれませんが、1つの [[Prototype]]
しか存在しません。 オブジェクトは2つの他のものから継承することはできません。
__proto__
は [[Prototype]]
のための歴史的な getter/setter です。この2つの違いを知らないのは、初心者の開発者にありがちなミスです。
__proto__
は内部の [[Prototype]]
プロパティとは 同じではない ことに注意してください。これは、[[Prototype]]
のgetter/setter です。後でそれが重要な場面をみていきますが、今は JavaScript 言語を理解するために、このプロパティについて心に留めておいてください。
__proto__
プロパティは少し時代遅れです。これは歴史的な理由から存在しており、モダンな JavaScript では、プロトタイプの get/set の代わりに、 Object.getPrototypeOf/Object.setPrototypeOf
関数を使用することが推奨されています。これらの関数についても、後ほど説明していきます。
スペックでは、__proto__
はブラウザでのみサポートされなければなりません。ですが、実際にはサーバサイドを含むすべての環境で__proto__
がサポートされています。ので、安全に使用することができます。
__proto__
記法は直感的でわかりやすいので、例ではこの記法を使います。
書き込みはプロトタイプを使用しません
プロトタイプは、プロパティを読むためだけに使われます。
書き込み/削除操作はオブジェクトで直接動作します。
下の例では、自身の walk
メソッドを rabbit
に割り当てています。:
let animal = {
eats: true,
walk() {
/* このメソッドは rabbit では使われません */
}
};
let rabbit = {
__proto__: animal
}
rabbit.walk = function() {
alert("Rabbit! Bounce-bounce!");
};
rabbit.walk(); // Rabbit! Bounce-bounce!
これ以降、rabbit.walk()
呼び出しは、プロトタイプを使うことなく、オブジェクトの中にすぐにメソッドを見つけ、それを実行します。
getter/setter の場合 – もしプロパティの読み書きをすると、プロトタイプで参照されて呼び出されます。
例えば、以下のコードで admin.fullName
プロパティをチェックしてください:
let user = {
name: "John",
surname: "Smith",
set fullName(value) {
[this.name, this.surname] = value.split(" ");
},
get fullName() {
return `${this.name} ${this.surname}`;
}
};
let admin = {
__proto__: user,
isAdmin: true
};
alert(admin.fullName); // John Smith (*)
// setter がトリガします!
admin.fullName = "Alice Cooper"; // (**)
alert(admin.fullName); // Alice Cooper, admin の状態が変更されました。
alert(user.fullName); // John Smith, user の状態はそのままです。
ここで、行 (*)
では、プロパティ admin.fullName
はプロトタイプである user
が getter を持っているので、それが呼ばれます。同様に行 (**)
では、プロパティはプロトタイプにある setter が呼ばれます。
“this” の値
上の例で、興味深い質問が起きるかもしれません。: set fullName(value)
の内側での this
の値はなんでしょうか?プロパティ this.name
と this.surname
が書かれているのはどこでしょうか? user
または admin
?
答えはシンプルです: this
はプロトタイプによる影響を持ったく受けません。
メソッドがどこにあるかは関係ありません:オブジェクトの中でも、そのプロトタイプ内でも。メソッド呼び出しでは、this
は常にドットの前のオブジェクトです。
したがって、setter は実際に this
として admin
となり、user
ではありません。
多くのメソッドを持つ大きなオブジェクトを持ち、それを継承する場合があるため、これは実際には非常に重要なことです。継承したオブジェクトで継承したメソッドを実行すると、大きなオブジェクトではなく、継承したオブジェクトの状態を変更します。
例えば、ここでは animal
は “メソッド格納域” を表現しており、rabbit
はそれを使います。
呼び出し rabbit.sleep()
は rabbit
オブジェクトに this.isSleeping
をセットします。:
// animal がメソッドを持っています
let animal = {
walk() {
if (!this.isSleeping) {
alert(`I walk`);
}
},
sleep() {
this.isSleeping = true;
}
};
let rabbit = {
name: "White Rabbit",
__proto__: animal
};
// rabbit.isSleeping を変更する
rabbit.sleep();
alert(rabbit.isSleeping); // true
alert(animal.isSleeping); // undefined (prototype にそのようなプロパティはありません)
結果の図は次のようになります:
もし bird
, snake
など animal
から継承された他のオブジェクトを持っていた場合、それらもまた animal
のメソッドへのアクセスができます。しかし各メソッドでの this
は対応するオブジェクトであり、animal
ではなく、呼び出し時に評価されます(前のドット)。 したがって、this
にデータを書き込むとき、これらのオブジェクトに格納されます。
結果として、メソッドは共有されますが、オブジェクトの状態は共有されません。
for…in loop
for..in
ループは継承したプロパティも繰り返し処理します。
例:
let animal = {
eats: true
};
let rabbit = {
jumps: true,
__proto__: animal
};
// Object.keys は実親のキーだけを返します
alert(Object.keys(rabbit)); // jumps
// for..in は実親と継承したキー両方をループします
for(let prop in rabbit) alert(prop); // jumps, eats
これは期待している動作ではなく、継承したプロパティは除きたい場合は組み込みのメソッド obj.hasOwnProperty(key)が利用できます。これは obj
が key
という名前のプロパティをもつ場合(継承したものは含みません)、true
を返します。
従って、継承したプロパティをフィルタする(あるいはそれらについて何かをする)ことが可能です。:
let animal = {
eats: true
};
let rabbit = {
jumps: true,
__proto__: animal
};
for(let prop in rabbit) {
let isOwn = rabbit.hasOwnProperty(prop);
if (isOwn) {
alert(`Our: ${prop}`); // Our: jumps
} else {
alert(`Inherited: ${prop}`); // Inherited: eats
}
}
ここでは、次の継承チェーンがあります: rabbit
は animal
を継承し、animal
は Object.prototype
を継承しています(animal
はリテラルオブジェクト {...}
なので、これはデフォルトです)。その上は null
です。:
興味深い点が1つあります。メソッド rabbit.hasOwnProperty
はどこから来るのでしょうか?我々は定義していません。チェーンをみることで、メソッドは Object.prototype.hasOwnProperty
で提供されていることがわかります。つまり、継承されたものです。
…ですが、なぜ hasOwnProperty
は継承したプロパティもリストする for..in
ループで eats
や jumps
のように登場しないのでしょう。
答えはシンプルです。これは列挙不可だからです。Object.prototype
の他のすべてのプロパティと同様に、enumerable:false
フラグを持ちます。そして、for..in
は列挙可能なプロパティのみをリストします。そのため、Object.prototype
のプロパティは列挙されません。
Object.keys
, Object.values
などのほとんどの他のキー/バリュー取得メソッドは、継承したプロパティを無視します。
これらはオブジェクト自身の操作のみ行います。プロトタイプからのプロパティは考慮され ません。
サマリ
- JavaScriptでは、すべてのオブジェクトは隠れた
[[Prototype]]
プロパティを持っており、それは別のオブジェクトまたはnull
です。 - それにアクセスするために
obj.__proto__
を使うことができます(他の方法もあります。それらは後ほど学びます)。 [[Prototype]]
によるオブジェクトの参照は “プロトタイプ” と呼ばれます。- もしも
obj
のプロパティを読みたい、またはメソッドを呼び出したいが、そこに存在しない場合、JavaScriptはプロトタイプの中で見つけようとします。 - 書き込み/削除操作はオブジェクトに対して直接動作し、プロトタイプを使いません(プロパティが setter でない限り)。
obj.method()
を呼び出し、method
がプロトタイプから取られた場合も、this
は依然としてobj
を参照します。したがって、メソッドはたとえ継承されていたとしても、常に現在のオブジェクトで動作します。for..in
ループは自身と継承したプロパティ両方を繰り返し処理します。他のすべてのキー/バリュー取得メソッドはオブジェクト自身に対してのみ操作します。
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